飛騨高山『飛騨牛しゃぶしゃぶ割烹 陣屋』で大切な人と極上のひとときを味わう

「飛騨牛しゃぶしゃぶ割烹 陣屋」は、高山市街地にありながら、日常から離れて心ゆくまでお食事が楽しめる隠れ家的なお店です。今回は、そんな「割烹 陣屋」のこれまでの歴史と店内の雰囲気、二代目女将が作るお料理の数々をご紹介します。

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飛騨高山『飛騨牛しゃぶしゃぶ割烹 陣屋』で大切な人と極上のひとときを味わう

店のおいたち ~創業から今日まで~

今年で創業61年目を迎えた「飛騨牛しゃぶしゃぶ割烹 陣屋」のこれまでの歩みをご紹介します。

  • ▲割烹「陣屋」の玄関
  • ▲この外灯が目印

高山の街の喧騒を離れた静かな町筋で、ひっそりと静かに営まれてきた割烹「陣屋」。知る人ぞ知る、隠れた名店です。


創業は昭和39年(1964年)。


女将のお母さま(初代女将)が、昔、高山駅前にあった旅館街の一角、ちょうど今の「いろは旅館」さんの辺りを借りてお店を開いたのが始まりです。


高山で一番最初にカウンター席で朴葉味噌を提供したのが、この陣屋さんでした。


「陣屋」という店名は、「誰でも覚えてもらいやすい名前にしたい」という初代女将の思いから、高山に昔からある代官屋敷の名をとって名付けられました。


当時の高山陣屋は、岐阜県庁の飛騨県事務所の庁舎として使われていたこともあり、「陣屋」を店名にすることに対して、今ほど社会の目が厳しくない時代でした。周囲も「運のつく名前だからいいよ」と好意的な反応だったそうです。


こうして、初代女将が一人でお店を切り盛りし、朴葉味噌をはじめ、一品料理や飛騨牛の炭火焼など、様々な料理を作ってお客さんをもてなしてきました。


▲「陣屋」のマッチ。昭和時代の飛騨高山の雰囲気を感じさせます。


やがて、市内で朴葉味噌を提供するお店が他にも増えてきたこともあり、開業から14年経った頃、店を閉じて別の新しい場所に移転することに。


次はどうしようか…と考えましたが、ちょうどその頃には商談や接待でお店を使っていただくことが増え、また、お客様のご要望で飛騨牛しゃぶしゃぶを提供することがよくあり、「飛騨牛しゃぶしゃぶの専門店」としてやっていこうと決めたそうです。


さらに、「女性の会合にも使っていただける店にしたい」「住宅街の中の静かな所で、路地の少し奥まった場所にお店を構えたい」という初代女将の夢もあり、いろいろ物件を探していく中で、今のこの場所と出会い、移転。


それが昭和53年(1978年)、今から47年前のことです。


お客様におくつろぎいただきながら、お食事をおいしく召し上がっていただける店にしようと、店内を今の形に整えていきました。


▲「陣屋」の文字が入ったお支払い用のトレー


当時の女将は、母の店を継ぐつもりは全くなかったそうです。ところが、ひょんなことからお店を手伝うようになり、いつしか母である初代女将のもとで、そのまま割烹の仕事を続けることになったのです。


こうして「陣屋」は、母子二人三脚の体制で「飛騨牛しゃぶしゃぶ」の割烹料理店として生まれ変わり、「大切な客人をもてなすことができる、隠れ家的なお店」として親しまれてきました。


最近では、昔からの馴染みのお客さんが成人した自分の子や孫を連れて来店したり、親子三代で通い続ける常連さんがいて、さらには、東京など遠方から定期的に訪れて陣屋の味を楽しまれるお客様もあり、長年ご贔屓にしてくださる顔なじみのお客さんに支えられ、今日まで営まれてきました。


しかし、10年ほど前に初代女将が床に臥すようになり、その間、今の女将が一人でお店を切り盛りしてきましたが、8年前の平成29年(2017年)3月に初代女将が永眠。


現在は、今の女将が二代目の暖簾(のれん)を引き継ぎ、初代の味を守りつつ、地元の飛騨高山産の食材や日本国内の旬の食材を使って、おいしい手料理を作り続けています。


カウンターの片隅に目を向けると、小さな写真額と花がそっと飾られていました。

▲掘りごたつ式のお座敷カウンター席にて。


女将にうかがうと、「あれは母の写真です」とのこと。

こうして飾ることで、お母さまに女将の仕事ぶりを見守ってもらっているそうです。


「今でも母にはかないません。母は私の憧れであり目標です。なかなか母の域に達することはできませんが、うち(陣屋)の味を気に入ってくださり、いつもおいでくださるお客さまに心から満足していただけるよう、誠心誠意がんばっています。」と、二代目女将は話します。


初代が切り開いた「陣屋」を受け継ぎ、その道を真摯に歩む女将の姿に、飛騨高山の女性がもつ芯の強さと深い情味を感じました。

心づくしのお料理をいただく

飛騨牛しゃぶしゃぶの前に出されたお料理5品をご紹介します。


まず最初は、この一椀から。

「豚汁」

この日は終日氷点下という非常に寒い一日でしたが、味わうごとに身体が温まりました。また、初めての来店でドキドキしていた心の緊張も、汁物のぬくもりのおかげでホッと解けました。

野菜がたっぷりで滋味深く、味噌と出汁のうまみが心身にじんわりとしみわたります。




「あまごと塩らっきょ」

甘辛く調理されたあまご。こんなにおいしくてやわらかいあまごは生まれて初めて食べました。頭から尻尾まで残すことなくきれいにいただけます。付け合わせの塩らっきょはサッパリしていて、お口直しにピッタリでした。

ちなみに、あまごは川魚なので背を手前にして盛り付けられています。これは和食の伝統的な盛り付け方「海腹川背(うみはらかわせ)」で、海魚は腹を手前に、川魚は背を手前にして盛るという作法にのっとったものです。




「このわたの茶碗蒸し」

「このわた」とはナマコの腸を塩漬けして熟成させたもので、日本三大珍味の一つです。これを茶碗蒸しにした贅沢な一品。今から35年前にお店でお出ししたところ、お客さんに大好評で「また食べたい」という声が相次ぎ、以降、作り続けて今では陣屋の定番人気料理となっています。熱燗によく合います。




「いか真薯(しんじょ)」

真薯(しんじょ)とは、すり身に山芋などを加えて蒸し、茹でて揚げたものです。こちらはいかで作られた真薯です。フワフワした食感の中にコリコリと歯ごたえのある具材が入っていて、柔らかくて温かみのある味わいでした。




「牡蠣の照り焼き」

これで一粒という、とても大きな牡蠣です。女将さんにお聞きしたところ、宮城県産のものだそうです。一口いただくと、えごまのような香ばしい風味をふわっと感じました。こってりと濃厚な味わいで、「牡蠣にこんな食べ方があるのか!」と驚いた一品です。




▲お酒がよくすすみます。熱燗をちょっと大きめの盃で。

仕入れから仕込み、調理…と、すべての作業を女将さんが一人で行い、一品一品じっくり時間をかけ、手間を惜しまず丁寧に作られていることが、どのお料理からもひしひしと伝わってきます。

それならば、ゆっくり時間をかけてしっかり味わいながらいただくとよいのでしょうが、一口食べるとお箸が止まらなくなり、ペロリと完食してしまうのです。


それくらい、どれも本当においしいお料理でした。


極上の飛騨牛しゃぶしゃぶを味わう

最高級の飛騨牛を使ったしゃぶしゃぶ料理を堪能しました。

お料理5品を順番にいただいき、場の雰囲気にもすっかり馴染んだ頃、「それでは始めましょうか」の女将さんの一声があり、コンロに火が点(つ)きました。


▲鍋とコンロは一組につき1セットずつです。



▲美しい盛り合わせ。これで一人前です。高山の老舗精肉店「天狗総本店」から仕入れているというA5等級の飛騨牛。付け合わせのしいたけは、肉厚でおいしいと評判の飛騨高山産です。


▲鍋の中にはお水と昆布が入っています。いい出汁がでてきました。まず最初に付け合わせのしいたけを投入します。


▲女将さんの合図で、お肉を入れます。しゃぶしゃぶ用に薄くカットされた飛騨牛は、赤身と脂肪のつやが美しく、とても柔らかいです。


▲しいたけが浮かんでいる鍋の中を、お肉が泳いでいるよう。


▲タレは「ポン酢しょうゆ」(左)と「ごま」(右)の2種類。どちらもおいしかったですが、私は柚子を強めに効かせたポン酢しょうゆダレが気に入りました。 


鍋からサッとあげたお肉にタレをつけて一口食べると、飛騨牛特有のほのかな甘みと、酸味が効いたポン酢のしょうゆタレがお口の中でからみ合い、それはもう極上の味わいでした。


お湯に通すことで余分な脂が適度に落ちてサッパリしているのに、お肉はしっとりと柔らかいままで、すごくおいしい!


付け合わせの具材も、お肉のうまみの引き立て役として最高でした。特に野菜は切り方に工夫があり、いろいろな食感を楽しめました。



しゃぶしゃぶを堪能した後は、甘味とお茶で締めくくります。


▲「ほうじ茶」と「アイスもなか」。もなかの器は、淡い朱色が特徴の飛騨春慶の漆器でした。飛騨高山の伝統工芸品です。

女将さんとの会話を楽しみながらいただいた「飛騨牛しゃぶしゃぶ」のコース。

最後の甘味を味わう頃には、他の同席のお客さんたちともすっかり打ち解け、和やかな雰囲気に包まれました。



この感じ、何かに似ている。何だろう?


…と考えたとき、ふと思い浮かんだのは、お茶室での茶会。そう「一期一会(いちごいちえ)」でした。


「茶室」という特別な空間の中で、現実を忘れて素の自分に戻り、その場限りのひとときと出会いを愉(たの)しむ。


そんな茶道の「一期一会」にも似た空気感を、女将のおもてなしと手料理を通して体感し、心地よい余韻が広がっていく…。あぁ、これが割烹「陣屋」の魅力なのだなと感じたのでした。


ご予約方法

接待でのご利用や、ご家族・ご夫婦の記念日に。しっとりと落ち着いた雰囲気の中で、静かにお食事をたのしみたい方におすすめです。


お電話による完全予約制です。

・女将が一人でお店を切り盛りしているため、完全予約制とさせていただいております。

・当日予約は不可(お早めにご連絡ください。遅くても前日までにお願いします。)

・ご予約は「お電話」のみです。

・予約可能日や時間などの詳細については電話でお問い合わせください。お客様のご要望なども電話で承ります。


◆料金

お一人 12,000円~


◆貸切り

可(最大8名様まで。お一人様からでもお受けします。ご予約の際にご相談ください。)


◆営業時間

17:00~22:00


◆定休日

不定休(予約営業のため)


◆お支払い方法

現金のみ。キャッシュレス決済・クレジットカード不可


<住所・電話番号はこちら>

お食事を終えて~感想~


「陣屋」さんを訪れたのは今回が初めてで、夫と夫婦水入らずでお食事をいただきました。


私事で恐縮ですが、実は私たちは、ちょうど取材の2ヶ月ほど前に結婚30周年を迎えた熟年夫婦です。ちなみに、記念日当日はお互いに忙しかったため、お祝いなど特別なことは何もしませんでした。


ところが、女将さんに温かく迎えていただき、カウンター席に並んで座って夫婦で盃を傾け、おいしいお料理に舌鼓を打ちながらゆったり過ごしているうちに、まるで「真珠婚式」のお祝いをしてもらっているかのような…特別な時間に感じられたのです。結婚30年の節目のことは一言も女将さんに話していないのに、本当に不思議な感覚でした。


心づくしのおもてなしを受けているうちに、お腹も心も満たされていき、夫婦共々温かく幸せな気持ちになりました。




人生の節目に大切な人と特別な時間を過ごしたいとき、また、大切な人を心を込めておもてなししたいとき、あるいは、日ごろ頑張ってきた自分を労わり、自分にご褒美をあげたいときに、陣屋さんは、ぬくもりあふれる心豊かな贅沢なひとときを提供してくれます。


ここは、古き良き飛騨高山の風情と、昔ながらの高山の情緒を今に残す素敵なお店です。


高山の街角にひっそりたたずむ「飛騨牛しゃぶしゃぶ割烹 陣屋」で、初代から引き継がれた伝統の味と女将の真心をじっくり味わわれてみてはいかかでしょうか。


ライタープロフィール

シモハタエミコ
生まれも育ちも飛騨高山。生粋の飛騨弁ネイティブです。お車だけでなく公共交通機関で高山に来てくださった方も楽しめる観光情報を中心にお伝えします。また、ニッチなお散歩コースもご紹介します。
好きなお酒は、飛騨の地酒・熱燗派です。
シモハタエミコ

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